福岡高等裁判所 昭和43年(ラ)56号 決定 1968年6月20日
抗告人 迫水俊一(仮名)
相手方 西村マチ子(仮名) 外七名
主文
原審判を取消す。
本件を福岡家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。
よつて判断するに、遺産分割の審判は相続財産を構成する財産を分割の基準に従い相続分に応じて、現物分割あるいは債務負担の方法により共同相続人に分割し金銭の支払、物の引渡、登記義務その他の給付を命ずる形成的裁判であり、これによつて相続財産に関し共同相続人間に権利義務の関係を具体的に確定し、また金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行を命ずるときは債務名義として執行力を有するものであるから、審判主文は確定された法律関係ないしは給付の内容が一見して明らかなように具体的に特定されねばならないことはいうまでもない。
しかるに原審判は、次のような諸点において形成される法律関係、給付内容が十分特定されていないように思われる。
1 すなわち、主文第一項の1および5は、原審判添付物件目録(10)の土地を相手方西村マチコと抗告人迫水俊一に分割するについて前者に対しては右土地のうち「北側三〇坪」後者に対しては「南側四二坪〇三」と表示するのみで、右土地をどのような線で二分するのか具体的に明示していない。なるほど原審判には別紙として図面も添付されているが、これは正確な方位、距離等の記載のない略図に過ぎない。
2 次に、主文第一項の2ないし5は、同物件目録(3)の家屋を相手方迫水定治と相手方迫水ヨネ、同目録(5)の家屋を相手方迫水ヨネ同浜田トヨと抗告人迫水俊一にそれぞれ分割するについて、これ等家屋のうち「東側の部分(相手方何某居住部分)」「西側の部分(相手方何某居住部分を除いた部分)」「中央の部分(相手方何某居住部分)」等の表示を行い、これまた該家屋をどのように分割するのか具体的に明示していない。何某居住部分というがごとき表示は当該家屋の審判時における占有関係を更に確定することを要し、さきの東側、西側、中央部分等の表示と相俟つても、分割の範囲を特定するについて未だ十分でない。
3 また、主文第一項の2ないし4は、同目録(3)の家屋のうち西側部分を相手方迫水定治、同家屋のうち東側部分を相手方迫水ヨネ同目録(4)の家屋を相手方浜田トヨに各分割するについて、いずれも家屋の敷地を他の共同相続人に分割したところから、右家屋については「敷地使用権付」と表示している。しかして、これが共に被相続人の所有であつた家屋と敷地とを、それぞれ別個の相続人に分割するため、敷地使用に関し新たな権利関係を設定したものとするならば、それが使用貸借であるか、賃貸借であるか、期間、賃料額その他の諸条件を掲示して内容を明らかにしなければならないこというまでもない。
4 更に、主文第二、三項は、抗告人迫水俊一および相手方迫水定治に対し、いずれも相手方迫水ヤス子、同迫水正一、同迫水隆治、同大木ヨシ子に対する金員の支払を一括して命じているが、相手方迫水ヤス子と相手方迫水正一外二名とは相続分を異にしており、平等の割合で債権を有するかのごとき右表示が適切でないことはいうまでもない。
とすれば、爾余の点について判断するまでもなく、原審判は主文に掲げるところが特定せず不当であるから取消を免れない。よつて家事審判規則第一九条第一項に則り本件を福岡家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 池畑祐治 裁判官 蓑田速夫 裁判官 権藤義臣)